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花母#282 麻紀子

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人混みの中で、息子から意外なことを言われた。
麻紀子は、頭の中が真っ白になり
気がつけば道路の真ん中で息子の頬を叩いていた。
(しまった!)
思ったが後の祭り。
麻紀子は背を向け歩き出した

「俺ママとしちゃいたいかも」
街中で息子の仁志は、母親に向かってそう言ってしまった。
ワンクッション置いて母の平手が飛んできた。
実の母に焦がれる気持ちは、今に始まったことではない。
なんどかそういう素振りをしたが、
母がちゃんと本心に気付いてくれることがなかっただけだ。
女の肉体というものは、えてして、突然にそしてあっさりと
精神を裏切ってしまう。
麻紀子も、そうなってしまうことの浅ましさに怯えているから、
息子の頬をいきなり叩いてしまった。
自分自身から逃げたのだ。
昨夜、夫の手から必死で逃れようとした自分のことも
頭にあった
自分の肌に触れてくる夫の手が、汚らわしく
不潔なものと感じられたから、真紀子はずっと拒んでいた。
そのことの反動のように、息子の頬を殴った感触が
いつまでも消えずに残った。
手のひらに残った感触は、息子の中に男を意識させ、
ぼんやりと物想いに耽る。
不吉な植物の芽が、麻紀子の心の中に生まれてきた
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女は幾つになっても男から愛されたい。
その現実を厳しく戒めようとした。
脈絡なくわきあがっては消えていくその欲求は、
際限がない。
生まれては消え、消えては生まれてくる
無数の気泡のように。
それは不吉な心の芽となり、性懲りもなく
肉体の中に芽生えてきた

「あなたはまだわたしとしたいの?」
「見せてくれるだけでもいいけど。」

熱病にでも罹ったような潤んだ眼で言われた仁志は、
後先はなにも考えない。
ひどく単純だ。
実の息子に下半身をさらし舐められた瞬間から自我を捨てた。
母親として。
妻として。
主婦として。
安全装置をすべて解除した。
淫乱になりきった。
一方。
自らの欲情に単純な息子は、堕ちた母を可能な限り
燃焼させようと躍起になった。
母と同様に最初から、迷いも躊躇心もなにもない

街に夕闇が迫る頃、ふたりホテルから出てきた。
しばらく親子は肩を並べて歩道を歩いていたが、
「あなた、先に帰って。」
「ちょっと寄りたいところがあるから」
母は雑踏の中に。
それが麻紀子を見た最後だった。
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