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ある夫婦者の物語

学生時分に愛人関係となって
土建屋に夫婦として住み込んで愛を貫いた
実母と息子の物語。


そうさな、かなり前になる。

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当時、俺は土建屋で作業員の世話役をしていた。
ダム建設現場だったから賄いの夫婦者や作業員が宿舎に泊まりこんで
仕事をしていたわけだ。
その現場宿舎へ新入りとして夫婦者が入ってきた。
会社のほうから人相風体などはFAXされてくるから
年齢などはわかるけどね。
まあ書類上は旦那が齢28、嫁は齢38と書いてあったが。
どう見ても
夫のほうはまだ20歳少し過ぎたくらい、
妻のほうは夫より25歳以上年上。
夫婦者が入社する場合は妻は寮の賄いで
夫は作業員として雇用されるきまりになっていた。
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あるとき。
ダンナと現場で作業が一緒になり
休憩時間にちらりと過去をきいてみた。
この業界、いろいろ事情をもって転がり込んでくる人間が多い。
暗黙の了解として過去は聴かないのが建前なんだが
似たもの夫婦っていうが顔つき等
あそこまで似ていた夫婦者はいなかった。
それにやけにベタベタしているんだな。
”結婚したばかりなんだろう。”
と考えていたけどね。
で、もの珍しさもあって差しさわりのない程度に
聞いたわけだ。
嫁さんはまだ色艶のある熟女、スリムでスタイルもいい。
男好きのするいいオンナ。
でダンナ曰く
彼女は知り合いの奥さんだったという。
不倫ではなく未亡人だったそうだ。
こんな現場宿舎に入寮する人間って法螺話が通常で
事情を抱えて入ってくる人間が殆どで
話半分で聞いていた。
休憩時間が終わったんでそこまでにした。
よく働くダンナだったよ。

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それから暫くたったある日。
ダンナが現場で足場から数十メートル落ちた。
自分は現場の世話役だから
病院の手配と通報とかしたんだが
山奥だから麓の病院に着いたときは手遅れで、
この世を去った。
遣りきれなかったなあ。
遺された嫁はそれはもう半狂乱になった。
ダンナの名前を呼んで泣き崩れる。
修羅場だったな。
ただ不思議に思ったのは
自分は永いこと世話役をやって
何回かこんな場面につきあってきたけれども。
もちろん死亡事故というのは初めてだが、
この奥さんの嘆き方が多くの場合となにか違うんだ。
想えば、やけにベタベタしていたし。
妻の方は数日後に退社していった。
そのときに、
彼女のほうから話してくれた内容には
驚くばかり。
死んだダンナは彼女の実の息子だったというんだから。
事情が入り組んでいるんだが彼女がダンナ=息子を産んですぐ
生き別れになり数年後結婚。
でも子供ができずにいた彼女。
あの大地震に巻き込まれ結婚していたダンナも死んで
仮設住宅に住んで困っているとき運命の出会いしたのが
小学生だった彼だった
共に身寄りも無くなっていたから互いの家をよく往き来して
そのうち高校生となった彼と結ばれた。
ここまではよくある話だよな。
彼女は薄々
(実の息子では?)
と感づいていたという。
悩みに悩んで結局選んだのが
夫婦として生きる”
という選択。
死んだあいつにはそのことは墓場まで持っていくつもりで
打ち明けてなかったらしい。
何回か妊娠して内緒で堕胎したと言っていたよ。
しかし彼女は気づいて無かったけど息子も感づいていたのかもな。

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勿論自分を信用して話をしてくれたから他人には
内緒にするつもりだったけどね。
自分の住む業界で
「”実はそう言う関係”なんだという人間もいる。」
「恨(ハン)、愛憎は深い物か」
って再認識させられた思い出だった。
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