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乾いた月明り

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「俺の部屋を勝手に掃除しないでくれ!」
それがはじまりだった。
久美子が中学生の息子とはじめて
親子喧嘩になった。
日頃の主婦としての寂寞感が
息子の一言でキレたんだろう。
必死になって喰ってかかる。いまにも取っ組み合いに
なりそうな雰囲気で、
息子に右手首を握られた。
久美子は振りほどこうとしたが、
振りほどけない。
いつの間にか息子は大人に
なっていた
久美子の夫は野球の選手だ。
日常生活は結構制約を受けている。
ほとんど夫が家に居ることはなかった。
悠太は父を自慢に思ってるから、
「俺のかわりにママを守ること。」
幼いときから父に言われているので、
そうしてるつもりだ
「寂しいんだろう?」
その日は母の日だった。
久美子は別の意味でまたキレた。
息子と顔を向き合ったまま、
涙がとどめなく流れた。
何故これほど悲しくなるのか、
よく解らない。
解らないからますます
空しさは膨らんだ
「もうベッドで寝なよ。」
テーブルにうつ伏せて、
寝ていたらしい。
時計を見ると12時を
まわっている。
「この花、ありがとう」
悠太に腕を支えられ寝室に入った。
「悠太。」
振り返る息子
「一緒に寝てくれないかな?」
息子も特に遊びに夢中で、
ほとんど家にいることは
少なくなっている。
彼女は果たして自分が幸せなのか?
或いは不幸なのか
よくわからなくなっていた
母が寝込むまで側に居てあげようと、
息子は一緒にベッドに横になる。
母は手を握ったまま、
こっちに顔を向けて目を閉じている。
顔を見ていて
「幸せじゃないんだ。」
と思った。
母が無性に可哀相になる。
口唇にくちづけした。

声がした
「ママを、抱いてくれる?」
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母親は寝ていなかった。
眼を開けると間近に息子の顔があった。
息子の手が肩を引き寄せてくれた。
眼を閉じ息子の口唇に今度は強く
くちづけした。
初めて彼は母親の抱いてという意味を
理解したがこの後、どうしたらいいのか
解らないでいた。
母親の手が伸びてきて彼を包みこむ。

息子は母親の肉体に夢中になった。
夢中になればなるほど力が漲ってくる。
その上。
日を重ねるごとに母は活き活きとして
くるから、ますます母との睦事に励んだ。

その日から一ヶ月半が経過した。

父親が戻ってくる前の晩、
母が悠太の胸に顔をうずめながら、
「悠太。」と呟く

「ママと。」
「死んでくれる?」
息子は頷くと母と口唇を合わせる。

「困った。」

彼にすれば一緒に死ぬのはいいが、
これ程愛し合っていても、
母は幸福感を得られないんだ。
自分じゃ役不足なのかな?
そう考えると不甲斐なく自身が
思えてくる。。

暫くしたある日。

スポーツ紙の隅に5~6行の
囲み記事が出ていた。
「ある有名野球選手の息子
選手の背中を
ナイフで刺し重傷を負わせる。」

"シリーズ出場には差し支えない。が、
しかしかねて不和であった夫人との
離婚が正式に決まったようだ。"

と報じていた。


これはMacshoさんのブログ、
http://macsho.14.dtiblog.com/blog-entry-251.html
鵺伝説#13
です。
※一部言葉遣いなど校正しておりますが、筋は変えていません。※
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