2ntブログ

鏡の国の私

鏡の国の私
up022061.jpg

嫌な気分だった。
又、祖父が私宛の手紙を勝手に盗み読んでいる。
嫁の私を嫌っているわけではない。
そんな祖父の陰険な性格が嫌で堪らない。
主人に言ってもしょうがない些細なことだから、尚更
祖父への嫌悪が、胸の底に澱のように溜まってしまう。
電話中も、ふと気付くと廊下の先で聞き耳を
立てる祖父の気配がする。
お買い物に出るときも、私と顔が合うと必ず
「どこへ行くのか。」

そう問いただされる。
町内会長までしている祖父のそんな性格に、
私ひとりで耐えていると、
私の顔の表情に知らず知らず陰ができるようだ。
「母さん、最近なにか悩みごとでもあるの?」
「だって最近ぼうっとして」
「父さんのこと?」
息子に聞かれ、
「そんなんじゃないわ」
「まさか、おじいちゃん?」
「だって、なんか母さんを見る目つき」
「屋上で母さん、洗濯物干してるとき、母さんのお尻を
じっと見てるんだ、あのスケベじじぃ」
「そんな風に言わないの」
「気のせいよ」
wineglasses.jpg
今日は、公務員の主人も出張、
祖父も町内会の旅行で家の中は静か。
午後から降り始めた雨にずぶ濡れで息子が帰って来た。
まっすぐに風呂場へ直行した息子は
腰にタオルを巻いたままで自分の部屋へいった。
受験を控え、風邪でもひかれた大変と思い、
息子の部屋へ入った。
「母さん、俺」いきなり息子が私に抱きついてきた。
私を羽交い絞めにした息子とそのまま
どさっ!っとベッドへ倒れこんだ。
「ば、ばか!なにするの!」
おもいっきり息子を押しのける。
逃げるように息子の部屋を出た。
我に返ったのは近くのスーパーだった。
ちゃんと夕食の品を買物籠に入れている。
頭が混乱しながら買い物を続けた。
買い物を済ませて帰宅しようといつもの道を歩く。
近所の公園が見えてきた。
公園の入り口には半袖のパーカーにジーンズ
年は小学1,2年生に見える
少年が佇んでいた。
この雨の中、傘も差さずにずぶぬれのまま立っている。
訳を聞くとお母さんの帰りをずっと待っているのだ。
と言う。
「この傘あげるから差しなさい」
「私は大丈夫。家、すぐ近くだから。」
「このままここにいたら、風邪引くでしょ?」
「ね、だからお母さんが来るまで、この傘差して待ってて。」
少年の手に傘を持たせた。
恐ろしいほど冷たくなっている手に、しっかりと傘を握らせ
「じゃあね。」
と少年に背を向けた。
「おばちゃん!」
雨に濡れ私が振り返る。
「どうもありがとう」
それは純粋無垢な少年にしか出来ない天使のような
微笑みだった。
神に祝福を受けた者のみが知る
幸せそのものの微笑。
私は大きく手を振った。
そしてくるりと背を向けて走り出す。
走りながら自分が笑っていることに気がついた。
少年の笑顔につられて、微笑みを返した自分に気がついた。
その途端息子が理解できた。
くだらない事で悩んでいた自分が可笑しくなって、
さらに笑った。
何ということはない。
笑うことは結構簡単なのだ。
義祖父などに惑わされ
自分が笑えないようにしてたに過ぎなかった。
私は女なのだということを思い出した。
そのことを長い間忘れていた。
名も知らぬ少年に感謝しながら走っていた。
息子が女としての私を好きになってくれている。
私は笑いながら、泣いていた。
家に着くとすぐシャワーを浴び着替えをした。
簡単にお化粧さえもした。
こんな気持ちで鏡台のまえに座るのは
何十年ぶりのことだろう。
“この笑顔は昔のままじゃないの?”
“少し老けた?”
“彼が愛してくれる?”
鏡の中の自分に語りかけると、気分がすうっとした。
向こうにいるのが女の私、
こっちがいままでの母親でつまらない女。
鏡の精のおかげか鏡の向こうの私と入れ替わった。
入れ替わる勇気を与えてくれた
あの雨の中の少年に感謝した。
息子の部屋のドアを開けると、
彼は脅えたような目付きで
私を見つめている。
6.jpg
降りつづく雨の夕暮れは早い。
暗くなった息子のベッド。
月明かりに私の股間で影がゆらめいている。
もう、息子に思わせぶりな態度は取らなかった。
「私を好きなようにしなさい。」
自分で全裸になりベッドに横たわる。
息子の泣き出しそうな顔が愛しかった。
どこで覚えたのか、彼は女の一番敏感な肉芽を舐めしゃぶり
忘れかけていた安堵感に全身の血潮が沸き立ってくる。
“私の身体なんかで”
全身から力を抜き、彼の手を取り乳房を握らせると目蓋を閉じた。
関連記事