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聖夜前日

突然現れて消えた息子 孝之

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暇を持て余していた時だ。
ずっと逢ってなかった友達から
「いい人見つかったから私の店をやってみないか。」
と誘われた。
寂れた場末のスナック。
水商売ってはじめてだがなんとかなりそうな気になった。
歳も歳だし、気軽な独り身。
お金を儲けようとする気もなかったが、
「いくら?」
って聞くと、女友達は店の権利を百万でいいと言う。
高いのか安いのかまったく判らないけど
“彼女の結婚のご祝儀と思えばいいか。”
とずぶの素人がお店を始めると、ぼつぼつお客が来てくれた。
素人っぽさが逆にお客さんを安心させるらしく、
週末は一人だと手が回らなくなって、店のドアに張り紙を書き
男性のアルバイトを募集してみた。
紙を張り出してすぐに大学生だという
小奇麗な若者が働きたいとやって来た。
条件はすべて私の言うとおりでいいと言うので、
週末の忙しいときだけ働いてもらうようになる。
彼はよくやってくれた。
本当に親身になってフォローしてくれるので、
知らず知らずのうちに、何でも任せるようになっていた。
彼が居てくれる安心感で、客に付き合って
深酒もするようになる。
何度か、酩酊した私をマンションの部屋まで
送り届けてくれるようになり、
酔った勢いとは言え純心な彼と
ベッドで夜を共にしてしまう。

翌朝。

彼から
「女性とは初めて」
と知らされ、ひどく慌ててしまった。
「そんな気にしないで。」
「ママを好きだから。」
そう言う彼の横顔を見て
“あれ?誰かに似ている”
そう私が感じたのは、今思えば女の直感だった。
クリスマスイブの深夜。

午前になって店を閉めて
美味しい店でクリスマスパーティー。
彼と恋人気分で、ワインで乾杯した。
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「いままで俺、黙ってたけど」
「え?なにを?」
「俺、孝之」
「えっ?」
「ごめん、偽名なんか使って」

ワイングラスが私の手から抜け、床で粉々に砕ける。

“タ カ ユ キ ?”

“私の産んだ子供”

“乳飲み子を置いて家出した私の子供”

血の気が引いて行った。
瞳孔が開き、頭の中がまっ白になる。
店を出てタクシーに乗り、エレベーターを上がって
部屋に入るまでずうっと彼に脇を支えられ、
彼の言い訳を、延々と聞き流していた。
でも記憶にない。
話を全て呑み込めたけれど、
判断することはできない。
まるで肉人形だった。

「じゃ、帰るから」
「ここに、いて。」
「お願いだから。」
「行かないで。」
帰ろうとする彼の後姿に、そう叫ぶ。
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その夜の私は、狂気に満ちて
淫乱さは度を越していた。
自分が産んだ息子の肉体を激しく求め、
淫欲の炎で焼き殺して欲しいとさえ願った。

何度も求め合い応じあい
幾度も歓喜地獄に墜とされ、又登り詰める。

“このまま狂いたい。”

そうできれば、どんなに幸せだろうか。

自分が産んだ息子の肉体を激しく求め、
淫欲の炎で焼き殺して欲しいとさえ願った。

私の店で一月まえからバイトした学生が、
生み別れた実の息子という事実。
イブの夜そうとは知らず関係を持ってしまって、
本当の事を告げられ、それなのに又罪を重ねた。
もうとっくに陽が昇り、それでも決して彼の裸体を
離そうとはしなかった。
私はなにかに憑かれたように、彼を求めている
「このまま離れないで。」
股間を合わせ繋がったまま

“このまま時間が止まって欲しい”と切実に願った。
「なにか食べよう。作るから」
「いや。私、正気に戻りたくない。」
ゆっくり、ゆっくりと彼が腰を動かしてくる。
さすがに、それ程硬くない彼が、多量の放出液に満たされた
内部で動くと、その柔らかいモノが切ないほど
愛しくなってくる。

「お母さん。」

その呟きを
腰をゆったり動かしながら耳にしたとき、
歓喜と絶望感に満ちた津波が全身に押し寄せてきた。
「ね、私を妊娠させて。」
「あなたの証拠、子供が欲しい。」
「証拠?」

そう言うと、彼のモノが内部で膨らんだ。
「いいでしょ。一緒に育てよう。」
無言で彼は影のある微笑を浮かべ、大きく突いてくる。
「お母さん・・・・・。」
下半身がいきなり熱を持った。
「来て!欲しい!」
彼は動きを加速しながら、私と手を強く握り合った。
“来る”
大きな喜悦の波が私を呑み込み
その波の中で溺れてしまった。
そして。

そのまま気を失ってしまう。

最初の目に入ってきたのは白い壁と天井。
気がつくと、救急病院の白いベッドの上に横たわる自分。
看護師によればマンションの前の歩道で車に跳ねられて
救急車で運ばれてきたらしい。
顔から上は、ぐるぐると包帯に巻かれまるでミイラのような
状態だった。

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”彼はどこ?”
その日から忽然と、彼は私の前から消えてしまった。


退院してから、暫くして妊娠が発覚した。
私はお腹ののどもの父親をずっと待った。
実に息子、孝之の住所も架空のものだった。
いたたまれなくなった私は敬遠していた
義理の祖父の所へ意を決して電話してみた。
返事を聞いた私は携帯を思わず落としそうになる。

「孝之は去年交通事故で亡くなったけど。」
「あんたの住所がどうしても判らなくてな。」
「知らせようがなかったんじゃ。」
「すまんことだ。」
「過去はどうでも線香の一本でもあげてやれ。」
と、実家の義祖父。
私の頭の中は混乱した。

「死んだはずの息子が、どうして。」

「なぜなの。」

「天国から私に逢いに来てくれたの。」
「孝之。」
「でも、お腹の子は?」

お腹を押さえながら部屋の窓を見つめると
聖なる夜の雪が静かに舞っていた。

Src=Macsho氏 鵺伝説>夢裸身百夜#057
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