2ntブログ

親友と母と

wakige名取美知子
その週末も、
あいつはやってきた。
誠司は食卓を囲みながら、
嫌な気持ちを顔に
出さぬよう努めている。
あいつというのは
誠司の友達で、隆文。

1(6).jpg
誠司と隆文は
中学からの付き合い。
共にサッカーに
興味があった為
すぐに仲良くなり、
互いの家を頻繁に
訪れるようになった。
高校二年になった今は、
周囲の人間も
二人を親友同士と思って
疑わない。
しかし本当は違っていた。
誠司にとって
隆文は忌むべき存在だった。
「おい、誠司。」
「聞いてるのか?」
「え、何か言ったか」
ぼんやりとしていた誠司に、
隆文が話し掛けていた。
日焼けした肌が男らしく、
何より筋骨逞しい。
ちょっと見ると、隆文は俳優の
誰某に似ている。
要するに色男なのだ。
1(7).jpg

真四角の食卓に誠司と
隆文が向かい合い、
その間に母親の
由紀子がいる。
誠司からは右手、
隆文からは左手になる。
母は黙って箸を進めていた。
隆文はしきりに
誠司へ話し掛けてきた。
学校の事、
世情の事
そしてたまに
隣にいる由紀子へ
相槌を求めるように
話を振る。
父親は単身赴任で不在。
年に二度、顔を
会わせる位だ。
そのせいか
我が家は隆文が
毎週のように遊びにきても、
何の不都合もない。
むしろ、
その方が好ましい。
と母が言う。

1(9).jpg

また、隆文の家庭は
外泊しても
何も咎められない。
といって、
遠慮なくやってくる。
その頻度はに二、三回。
大抵は週末にやって来た。
ある日曜の午後の事。
別の友人と
映画を見に行く予定だった。
出先でその友人から
「急用で同行出来ない。」
という連絡を受けた。
それで、不意に
宙ぶらりんとなった誠司は、
やむなく帰宅する事にした。
母へ夕方まで戻らぬ。
と言ったが
どうしようもない。
一人で映画など見ても、
寂しいだけだった。
1(8).jpg

そして家へ戻ると、
見慣れた自転車が
庭に停めてあった。
「隆文?」
会う約束をした覚えはない。
来てくれて嬉しい
という思いが先立ち
家の中へ入った。
居間へ行ってみるが
そこには誰の姿も無い。
テーブルには来客に供されたと
思しき飲食物があった。
隆文が好みそうな菓子や
飲み物が置いてあり、
母が愛飲しているコーヒーの
カップもある。
つまり、二人は
ここでティーブレイクと
しゃれ込んだ訳だ。
(それなのに姿がない?)
しんと静まり返った居間で
ひとり佇んでいると、
二階から
何やら物音が聞こえてくる。
ふと嫌な感じを覚え、
足音を忍ばせ階段を登ると
女が愉しんでいる時に放つ
淫らな声が聞こえてくる。
普通に考えると、
我が家に女は母しかいない。
表には隆文の自転車。
(まさか?)
階段を上り夫婦の寝室へ行く。
夫のいない今、
ここは空閨でなければ
ならない。
しかし、無用心にも
開け放たれた扉の向こうに、
睦み合う男女の姿がある。
(母さん!隆文!)
カーテンで遮光された
薄暗い部屋の中に、
白い肌が浮んでいる。
それは母の姿だった。
ベッドの周りには
脱ぎ散らかされた衣類が
落ちていて、
中でも一番目についた
毒々しい赤色の下着。
誠司の胸を痛くする。
母は仰向けになり
その上には隆文が
のし掛かっている。
素足には赤い
網ストッキングが被せられ、
それが何とも
言えぬ猥雑さを醸し出す。
「ああっいいわ!」
ベッド脇のチェストに
置かれた照明で横顔が見えた。
汗ばみ、目が虚ろ。
はぁはぁ
と息を荒げ、
自分と同じ年の少年に貫かれ、
愉悦に浸っている。
両足を恥ずかしげも
無く開いて隆文の肩へ預け、
両手は頭の後ろへ。
あれが母?
誠司の足は驚きと怒りで
震え始めた。
隆文の腰は小刻みに
動いたかと思うと、
今度はたっぷりと
ストロークを取って
挿入を繰り返す。
その都度、母は喘ぎ
頭を振った。
逞しい腕を伸ばし、
母の乳房を撫でる姿は
支配者そのもので、
この関係は昨日今日では
ないようだ。
1(5).jpg

特に乳首が感じるのか、
二つの突起を指先で潰されるように
扱かれるのを好んだ。
隆文と母はこうして
作られた薄闇の中で、
永遠に愛し合うように思えた。
母は夫ある身、
息子の友人に肉体を許していた。
その事が誠司に
強烈な絶望と嫉妬心を
芽生えさせた。
同時に激しい
性的興奮を覚え、
気がつけば自室へ駆け込み、
自慰を始めていた。
(母さんが、隆文と。)
(どうして!)
別に母を女として
見ていた訳ではない。
優しくて英知の結晶の
ような母が、あのように
男の下で唸っている姿を
見たくなかっただけだ。
しかも相手は父親でも、
その辺の男でもない。
友人の隆文なのだ。
この日から誠司の
隆文を見る目が激変した。
それは同時に母への
不信感にも繋がり、誠司は
家を空ける事が
極端に減った。
友人と母親が自分の目を盗み
逢瀬を楽しむ。
これほど惨めな事が
世にあろうか。
それをさせない為にも、
おいそれとは家を
空けられなかった。
週末、泊まりに来るのは
自分の目を欺く為の
策略にすぎないと
思っている。
友人の息子が
頻繁に遊びにきているという
イメージを植え付け、
近所の人に不審がられぬよう
努めているかもしれない。
もしかしたら
僅かな隙を狙って
母を抱いているかも
しれない。
猜疑心を呼び、
今の誠司はほとんど精神を
病んでいるのかも
しれない
時に母の箪笥を開け、
いやらしい下着を目にすると
怒りに震える。
何時だったか
大人の玩具を見つけた時は、
叫びそうになった。
「あいつがこれで母さんを。」
そういう場面が浮かび、
また消えていく。
これを繰り返し、
眠れぬ夜もあった。
また妄想の中の母は
淫靡で恥知らずな女だった。
それはやはり、
あの光景が
誠司の心に
傷を負わせたからだろう。
しかし、普段の母は
清楚そのもので、
とても息子の友人と
肉体を重ねるような女には
見えなかった。
そのギャップが
更に誠司を苦しめる。
「おい。どうした?」
「変よ、あなた。」
気がつくと隆文と母が
心配そうな顔をして、
自分を見ている。
誠司はここで我に返り、
「何でもない」
そう言って笑った。
そしてまた今も眠れぬ夜を迎える。


原作:迷宮寺院ダババ氏




関連記事