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月の雫

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武はほしくてたまらないバイクを買いたくて、
深夜のバイトばかりしていた、
ようやく目的の半分ほど貯めたとき、
「もっと効率のいいバイトはないかなあ。」
と友達に相談した。
「お前ならホストクラブでも使ってもらえるよ。」
と言われ、歳をごまかして勤めはじめた。
もちろん家には内緒だ。すぐに指名が入った。
その中年の女性のことは覚えてなかった。
最初、店に友達に誘われてやって来て、武を覚えてくれたらしい。
それで今度は一人でやってきて、武を指名してくれた。
「私、こういうお店は、初めてだから」
と言った。
次にそのヒトが店に来たとき店長に
「デートの約束をしてみろ」
と言われた。
「デートする位ならなんとかなりそうだ。」
と思って、
母親と同じ年代と思われるその女性とデートの約束をした
祭日、その女性と食事して、買い物に付き合った。
三時間ほどのデートで
別れ際に封筒を渡された。
中に三万円入っていた。
時給一万のバイトなら効率がいい。
一ヶ月ほど過ぎた。
その女が二人連れで店に入ってきて武を指名してくれた。
接客中に店の先輩がトイレで、
「オマエ今夜抱いてやんな。」
「なんすか?」
「なんでもあの女、今夜でお終いらしい。」
先輩が言うには
武を指名したお客のご主人が外国勤務になり一緒に行くらしい。
すべて段取りはとってくれていた。
店長か先輩の手配か武にはわからない。
ホテルの部屋の鍵まで渡された。
店のレジの下に三年分位のスキンも置いているので、2、3個ポケットに収め
そのお客とホテルの部屋に入った。
武は自分が惨めで情けなかった。
夢に見るバイクのためとは言え、
「俺が、こんな中年女とするのか!」
と悲しくなる。
幸いなこと?に、相手の女性もなにか中途半端で
無理に優しくしてやっても、
そっぽを向き、じっとなにか考え事をしている。
「その気がないなら、早く言え!
とイラつくが、裸になって一緒にシャワーを浴びた段階から
武のほうが夢中になる。
そのヒトのカラダが、若い武の脳天を直撃してしまう。
シャワーを出たときから、お客と店員の関係はまったくなくなってしまい、
前戯もなにもないまま、あっと言う間に、本番行為はおわってしまった。
さすがに武は、すまなくなり、これから本領を発揮してやろうと
意気込んだが、相手の女性はさっさと着替えを済ませ
又封筒を置いて出て行ってしまった
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奈美絵はパリで、一通の日本で投函されたハガキに眼を通していた。
そのハガキはあの少年からのもので、
「パリに旅行するから、逢えないか?」
という簡単な文面だが、
少年の住所と名前をはじめて知って
あの少年が実に息子と知り愕然となって、
そのままそれから半日ものあいだ、固まっている。
焦点が合わなくなった目のやり場に困り、
遂にベッドに倒れ込んでしまった。

少年が二歳になった時、事情があり少年の父親にあたる男性と離婚し
そして再婚したのが今の夫だった。
「血を分けた実の息子と交ってしまった。」」
あの頃。
今の夫とのことでひどく荒んだ神経状態に陥っていた。
鬱憤晴らしのつもりで、友達に誘われるままホストクラブに通い、
一番初心そうな彼を指名した。
次に通ったときデートして、一回だけホテルで少年に抱かれた。
その少年が偶然にもおなかを痛めた我が子だった

武はバイクを買うことを止めた。
貯めた金であの人をパリまで追っ駆けてみようと決めた。
逢ってくれるかどうか全然解らない。
取り合えずハガキを出しておいた方が、
ストーカー行為にはならないだろう。
その位の気分だ。
あの人に逢いたい気持ちは、自分をどうごまかしても無駄だった。
たぶん金がつづくまで、パリでストーカーするんだと予想はしている。
それも又若さの試練だと思う。
武の予想に反し、ホテルに着いてすぐ電話したらあの人が出て、
「ホテルの部屋番号を教えて」
「え?ここの部屋番号ですか」
はじめから、あまりにもトントン拍子で気が抜けた。
武が作戦を、あれこれ考える間も無くドアがノックされた。
ドアをあけると、あの中年女性が立っている。
ずっと思い続けていた彼女より、実物は一段とステキに見えた。
なにを話したのかよく判らないまま彼女とキスしている。
最初の時の彼女と同じで、その気があるのかないのか、
よく判らないあいまいな態度で身体を開いてくれた。
「冷めている?」
と思うと優しいし、
「優しいなあ」
と思うといきなり心の壁ができて
拒絶される。
エッチの最初と最後も、一年前とまったく同じだと思う。
「もうあなたも、帰りなさい。」
それがあのヒトの最後の言葉だった。
目的を簡単に達せたのに、なぜか虚しくて堪らなくなった。
「姦りたくてわざわざパリくんだりまで来たわけじゃねぇ!」
「じゃ、なぜ?」
「あのヒトと不倫の恋でもしたかった?」
ハンパもんの俺は自問自答していた。

奈美絵はある決心をしていた。
自分が犯してしまった罪を償うには、
すべてを忘れ去って、今のままの生活をつづけて一生を送るか、
それとも、十字架を背負ったまま茨の道を歩くかを
選択しなくてはならない。
実の子がパリに来たのはチャンスかも知れない。
その宿命を天に決めてもらおうと思った。
実の子にもう一度身体を開きそれで妊娠したら、
離婚して一人でその子を育てよう。
もしなにもなければ、犯した過ちは許されたと思って、
産みの子と逢ったことも全部忘れ、いまのままでいよう

それから10年経った。
東京はお台場の小奇麗なカフェ。
日本人離れしたステキな洋装の、サングラスをした女性が
可愛い女の子を連れてお茶を飲んでいる。
好奇心の強いまわりの客は
「すごい外車に乗ったご亭主の迎えを待ってるんだろう。」
と思っている。
その女の子が手を振って駆け寄っていく。
その先には、すごい外車じゃなく、サイドカーつきの大型バイクが停まり、
若い男性が女の子を抱き上げた。
すっと立ち上がったサングラスの女性を見て、
「あのボロバイクに乗る格好じゃないだろうに。」
まわりは思ったりするが、近寄ってふたりが軽いキスを交わすシーンを
目の当たりにすると、まるで映画のワンシーンのようだった

鵺伝説#012
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