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昔話 蜘蛛が淵 備州

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蜘蛛ヶ淵の元となった民話です


大蜘蛛と留

小谷川上流の吉貞に蜘蛛が渕というというところがある。
むかしむかしの話じゃ。
淵の横に大穴があって、
中にはとてつもない大きな蜘蛛が住んどる。
という噂があった。
そんなわけで、村人は誰一人この淵に
近づかなかったが、
漆かきの留だけは別だった。
孝行者の留は、母親に楽させようと一生懸命に
漆液をとっていた。
そんなある日。
留がいつものように漆の液をとっていると、
トントンと肩をたたく者があった。
「おや、誰じゃ。」
と振り向いた留は驚いた。
肩をたたいていたのは、大蜘蛛の足先。
留は、動けなくなってしまった。
すると穴の中から
「おまえはなぜ噂を信じない。」
と声がした。
「見たわけじゃねえから。」
と留が言うと。
「おまえは見たものしか信じないのか。」
「やっぱり見ねえもんは。」
と留は続けた。
「じゃ、命がけでわしを見に来たんだな。」
留は慌てて
「とんでもねえ。」
「あなた様を見に来た訳じゃ。」
「ただ、漆の液を取りに来ただけで。」
「ほうっ、金と命を取りかえるか。」
「と、とんでも。」
留は一目散に走った。
村についた留は淵で起こったことを村人に話した。
「だから言わんこっちゃねえ。」
「いくら、いい木があったって、命あっての物種だ。」
と村人達は、留を冷やかすのでした。
それあら数日間、留は考えていた。
「何であそこの漆はダメなんじゃ。」
「あれだけ、枝っぷりのいい木は外にはねえ。」
どうしてもあきらめきれない留は岩穴へいった。
淵についた留は、岩穴の前でいった。
「大蜘蛛さん、何で液を取っちゃいけないんだ。」
「誰が液を取るなといった。」
「儂は、命と引きかえにするのか?と言ったんだ。」
「じゃ。液を取ってもええんじゃな。」
「命がけならな。」
「わかった。」
「また明日くるで。」
そういうと留は急いで家に帰りました。
その日、留が約束通り漆の液を取っていると、
大蜘蛛の長い足が留の着物をつかんだ。
「いまだ。」
と留は、すばやく帯をほどいて、体の力を抜きました。
長い足は着物を取ると穴の中へ。
留は微笑んだ。
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留は思った。
「着物を重ねておけば大丈夫だ。」
「これで液も十分取れる。」
そんなことを繰り返し数日が過ぎた
ある日のこと。
留が漆の液を取ろうとしたとき。
穴の中から大蜘蛛が、
「おぬしには負けた。」
「でも、なぜ命をかけてまで液を取るんだ。」
と大蜘蛛は、留に尋ねた。すると留は
「オラは漆かき。」
「漆の液が取れんと生きてはいけん。」
「仕事は、命がけだと気がついただけじゃ。」
それを聞いた大蜘蛛は、
「これからは、安心して液を取るがいい。」
といった。
そして、留の着物を岩穴の前に置いた。
着物を見た留は、ほっとした気持ちになった。
それからは、留も安心して漆の液をとれるようになり、
村人もこの淵に現れるようになった。
そして、村人達は、
この淵を蜘蛛が淵と呼ぶようになったんだと。
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